18.出会い




「お久しぶりです、クラウド様。」

久しぶりといってもクラウドが城に帰ってから10日ほどしか経っては
いないのだが、カレルの満面の笑みはいつもどおりにクラウドを招き入れた。
クラウドもいつも通りに軽い挨拶を送ったつもりだったが
カレルには到底勝てそうもないようだ。

「やはり赤子攫いの事件には闇の力が絡んでいましたか。」

柔らかいソファに腰をおろした途端、カレルはクラウドの用件を言い当てた。
カレルにしてみれば、聞くまでもない話ではあった。
クラウドが城に帰った後すぐにクラウドの部下達がこの街ロットに派遣され、
様々な調査が行われていた。
その人数は次第に増えていき、いまやロットの街は城から来た兵士達に
守られるように囲まれているのだ。
クラウドに、これだけの警戒をさせる相手は闇の者たち以外に考えられなかった。

「奴ら、思ったより用心深いらしい。長期計画でこの国を乗っ取ることを考えているようだ。」

「長期計画、ですか。」

深刻な事実を口にしているにも関わらず、どこかずれたクラウドの表現にカレルはくすりと笑う。
いつもと変わらないしれっとした口調から、まだ彼に余裕があることが読み取れた。

「それで、どうなさるおつもりですか?王子。」

冗談めかせて言ってみたカレルだったが、相手をしてくれるほどの
余裕ではなかったらしく、さらりと流された。

「ユウを使う。」

「それはまた、思い切った作戦ですね。」

躊躇いもなく柚有の名をだしたクラウドにカレル、今度は苦笑した。
しかし、柚有の力が完全に解放される時が近づいているのは
毎日柚有の成長を目の当たりにしているカレルが一番よく知っていた。
この事件に関わることが完全な解放のきっかけになるかもしれない
とクラウドは踏んでいるに違いなかった。

カレルに反対する気がないことを読み取ってクラウドは更に話を進める。

「この事件を片付けたら一度ユウを宮殿に連れて行く。」

「おや、もう寂しくおなりに??」

クラウドから今にもかみつかれそうな勢いで睨まれるのを承知でカレルは彼をからかう。

――実際、それが本音なのかもしれませんが。

そこまでは口に出さずカレルはにっこりと微笑んで見せた。

「馬鹿なことを言っていないでユウを呼んでこさせろ。」

明らかに不機嫌になった王子を気にも留めない様子で
カレルは承知しました、と会釈し席をたった。



――寂しい、だと?
  笑わせる。

その一言をいつものカレルの軽口と同じように流してしまうことができず、
クラウドは一層いらだった。
そんな暇などないくらい忙しかったのだと思ってから、暇があったらそう感じていたのか、
と自問自答する。

――馬鹿馬鹿しい。
  ユウは、他でもない自分自身が利用しようとしている女だ。
  端からそんな感情を抱くような対象ではない。

その端正な顔に形作られた笑いが、自嘲めいたものになっていることに
クラウドは気づいていなかった。










「え、お城に行けるの?!」

3人で昼食を囲みながらの話となり、柚有の嬉しそうな声が食堂に響いた。

「そんなに俺に会いたかったのか?」

クラウドは、さっきのカレルとのやり取りをすっかり忘れたように
いつものごとく意地悪そうな笑みを柚有に向ける。

「ちがう。だってお城には、ロアとか・・・そうだセラウドさんにも会いたいな!」

ロアはともかく兄セラウドの名がでて、クラウドはどこか気に入らない。
そんなクラウドをカレルはどこか楽しそうに眺めている。

「ユウさん、その前にやって頂かなければならないことがあるそうですよ?」

クラウドと柚有の会話を観察するように聞いているのは、
クラウドの違った一面を数多く発見できて
カレルにとっては興味深いことなのだが、肝心の本題がそっちのけでは口を挟みたくもなる。

「ああ、そうだ。お前に例の赤子攫いの事件のために力を貸してもらいたい。」

「え・・・。」

赤子攫いの事件。この街に来てまだ10日ほどの柚有の耳にさえ、
嫌でもその話題は入ってきていた。
最近も1人攫われ、合計では13人になっているらしい。

「私なんかが役に立つの?」

いつもの強気はどこかにいってしまったらしい不安げな柚有を見て、
クラウドとカレルは苦笑した。

「なんだ、怖いか?」

「いつもの威勢のよさはどこにいったのやら・・・。」

2人とも、かなりの時間を割いて柚有の鍛錬につきあってきたのである。
どうすれば柚有がその気になるかなど、知り尽くしていた。

「そんなんじゃ・・・。」

負けず嫌いの柚有はその言葉に反応してしまう。
男2人はそっと目を合わせにやりと笑いあった。
――かかった。
そう言いたげな笑いだ。

「無理にとは言わないが。」

ダメ押しとばかりのクラウドの一言で、柚有はきっと彼を睨みつける。

「無理なんて誰も言ってないでしょ。私ならやれるから。」

「決まったな。詳細はすぐに説明する。わかったら明日出かけるぞ。」

――そんな急に・・・?!

そう言いかけた柚有は慌てて言葉を飲み込んだ。

――これ以上ばかにされるわけにはいかない。

柚有は2人の単純な誘導作戦に気づくこともなく、ただ馬鹿にされているとばかり
思い込んでいる。
力の鍛錬の面ではいうなれば「師匠」である2人を前にして
これ以上情けないところを見せてたまるかと柚有は必死で余裕の笑みらしきものを
浮かべようとしていた。






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