08.力




「あら、ユウ様。わりと胸がおありのようですね。」

「ちょっ!?ロアさん?!どこ触って・・・!!」

「どこって、服を仕立てるにもサイズがわからないとどうにもなりませんし。
 今お召しになっているものでは目立ちすぎますわ。・・・よしこれで。
 ユウ様にお似合いになる服、すぐに届けさせますね。」

柚有の必死の抵抗もむなしく、体を好き勝手に触られた後、
にこりと笑ったロアに柚有はため息をつく。

無駄な抵抗で上がってしまった息を整えていると、
いつのまにか彼女が部屋から出て行こうとしていたので慌てて引き止めた。

 「ロアさん!!」

 「はい。何か?」

「あの、さっきはありがとうございました。あんな風に言ってもらえて、嬉しかったです。」

「お礼など。私がユウ様の立場だったらと考えたら口を挟まずにはいられなかったのです。
 お2人は、少々マイペースすぎる節がございますから。」

苦笑したロアに、柚有は真顔で深く頷いた。

「それから、ロアで構いません。」

「え・・・?」

「ロアとだけお呼びください。」

「あ、じゃあ私のこともユウって、」

「いいえ。それはできません。」

ロアは可笑しそうに柚有の言葉を遮る。

「どうしてですか?」

「ユウ様はセラウド様から仰せつかった大事なお客様ですから。」

もう一度にこりと微笑んで、ロアは部屋を出て行った。



――お客様、か・・・。

一人になった柚有は、広すぎてなんだか落ち着かないベッドに仰向けになり、
この数時間で起こったこと、わかったことについて考え出した。

――本当に、来ちゃったんだなぁ。異世界ってやつ。
  
けれど、帰れるかわからないどころか帰れる日が、既に決まってしまっている。
悔しいが、自分ひとりではどうしようもない。これは開き直るしかないようだ。
そう思い直したら、なんだか視界が開けてきた。

――やっぱり、異世界っていうと魔法だよね。私も使えるようになるかな・・・。

我ながら、切り替えが速いというか、まあ単純だと思う。
けれど、そんな世界に憧れがなかったといえば嘘になる。気持ちが晴れてきた。
ベッドからがばっと起き上がり、部屋を見渡すと窓際のテーブルにフルートがのっているのが見えた。

 「フルート・・・。」

さっきまで、セラウド達の話を聞くのに精一杯で、大切な相棒をすっかり忘れていた。

テーブルまで歩いていってフルートを手に取ると、柚有はいとおしげにその銀の光を見つめた。
どこにも傷などは見当たらない。

 「おまえが私をここに連れてきたのかもね・・・。」

神殿で会った、銀髪の男、(男だったらしい)ゼーダの言葉を思い出し、ポツリと呟く。
そうすると無償に吹きたくなって、真っ直ぐに立ちゆっくりとその銀の笛を構える。

やがて流れ出した澄んだ音色は、部屋の外、宮殿のあちこちに響き渡った。




「兄上、この音は一体?!」

「ユウの部屋から、聞こえてくるようですが・・・。」

書斎で、なおも異世界からの迷い人について調べていたセラウドとクラウドは、
風にのって流れてくるその甘美な音にしばし聞き惚れた。

「いってみよう。」

柚有のいる部屋に辿り着くと、2人は静かにドアを開け中を覗く。
そこには、銀色の笛らしいものを吹く柚有の姿があった。


「ユウが倒れていた時に大事そうに握っていたもの。あれは楽器だったようですね。」

「何て音だ。今まで聴いたこともないな。」

そして、たったままの姿勢でその演奏を堪能していた2人はある異変に気づき目を見開いた。

「兄上・・・。」

「ええ。・・・この光、まさかとは思いますが、気配がゼーダのものに似ているような・・・。」

一心にフルートを吹く柚有の全身が淡く白い光を発しているのだ。

体に光纏ったまま、曲を吹き終えたらしい柚有が気配を感じて後ろを振り返る。
ドアの前にいつのまにかたっていたセラウドとクラウドの姿に、柚有は驚いた。

「!!すいません、うるさかったですか?」

何も言わずたっている2人に柚有はおそるおそるたずねる。

「反対ですよ。あまりにも美しい音色なので、聞き惚れていたのですよ。
 私達の世界にはないものです。それは、あなたの世界の楽器ですか?」

「あ、はい。フルートっていって、金属でできた笛なんですけど・・・。」

フルートも高いものならば純銀や、純金で作られたものもあるが
柚有の楽器はそれほど高価なものではない。

「それは何か魔力がこめられているのか?」

「はっ?!」

思いがけないクラウドの言葉に、柚有は呆然とする。

「やはり自分では気づいていなかったのか。」

「ユウ、あなたがさっきその笛を吹いている間あなたの体が白い光に包まれていたのですよ。」

「白い・・・光??」

「ええ。その笛が原因でないとしたら、こっちの世界にきてからのことで何か心当たりは?」

柚有は、頭の中でめまぐるしく過ぎていったこの数時間の出来事を思い出す。

「あ・・・。」

「何かあったのか?」

「あの、神殿で会ったゼーダっていう人が最後に、
 なんか封印の目的どおり私に力をくれるとかなんとか・・・。」

「ゼーダがそう言ったのか?!」

クラウドの突然の大声に、柚有は体をこわばらせる。

「は、はい。」

「つまり、ユウがゼーダの眠りを覚ました張本人だということですか・・・。」

セラウドが納得したようにつぶやく。

「あの、一体どういうことなんですか?」

恐る恐るたずねた柚有に、セラウドとクラウドは顔を見合わせ難しい顔をした。

「ゼーダの言葉通り、あなたはゼーダの力の一部を受け継いだのです。しかも、強い白の光を。
 この光の色は、祖先である私達リュイス家の者でも決してもつことはありませんでした。
 つまり、この純白の光はゼーダのみが持ち得るもの・・・。あなたはその光を手に入れたのです。」

「あの・・・光とか、力とか、よくわからないんですけど。」

「光とは、魔力の象徴。その色によって主に操る魔法が異なってくる。
 ただ、お前の持つ白の光の場合、なんでもできる。」

クラウドの説明に柚有は首を傾げる。

「何でも??」

「そうです。本来火の力は赤の光に、水の力は青の光に、
 そして闇の力は紫の光に宿るとされていますが。
 あなたはそのどの力も使いこなせるようになれるということです。」

「私が・・・魔法?」

さっき漠然と思い浮かべていた単語が早速目の前に突きつけられ
柚有は驚きの中にも、大きな期待を感じずにはいられなかった。







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