07.温もり




嗚咽をこらえてしぼりだすような声で叫んだ柚有を、
2人の男は呆然と見つめていた。



 「お言葉ですが・・・・

そこで、ずっと後ろに控えて成り行きを見守っていたロアが
遠慮がちに声をかけた。

「お2人とも、もう少しこの方のお気持ちを考えて差し上げたほうが
  よろしいのではないかと・・・。
 異世界からやってこられたということは、この国での常識も、普通も、
 この方にとってはまったく知らないものということ。
 状況がわかったといっても、不安は消えないでしょうし、何よりこの方は今、お独りでございます。」


ロアの言葉に押し黙っていたクラウドがようやく口を開いた。

「一人じゃあ、ないだろう。」

今まで交わした数回の言葉の中で、一番優しく囁かれたその言葉に、柚有は思わずクラウドを見た。

「誰も、お前を放り出したりはしない。帰れる方法があるんだ。つらいだろうが時を待て。」

思いがけない優しい言葉に、声音に、柚有は別の感情とともに新たな涙がこみあげてくるのを感じた。

「あなたの気持ちを考えもせず・・・私達の言い方は軽率でした。
 ですが、私達があなたが帰れる方法を懸命に探したのも事実。
 少しずつでいいので・・・私達の事を信頼してくれませんか。」

恥ずかしかった。一人で子供のように泣きわめき、彼らの善意を無視するようなことを言って。 
気が、動転してしまっていたのだ。突然自分に降りかかった信じがたい現実を目の当たりにして。

「あの・・・ごめんなさい。私。ほんと信じられないことばかりで驚いて。失礼なこと言って。」

「いいのですよ。こちらも悪かったのです。・・・それよりも。名前教えてください。」

初めにみた優しい微笑でセラウドが言う。
そして、その心の奥にすとんと入り込むような深い穏やかな声に柚有はまた泣きそうになる。

「柚有です。高田柚有。」

「ユウ、ですか。」

「ユウ、か。」

「ユウ様・・・。」

三人のそれぞれの口からでた呟きに柚有は少し不安になる。

「変、ですか?」

「いや、いい名だ。」

クラウドがにっと笑う。
そんな反応を予想していなかった柚有は、心臓がドキッと跳ねるのを感じた。
またもや赤面し始めた柚有を優しげにみながら、
セラウドはこう締めくくって部屋をでていった。

「それでは、ユウ。この世界へ、私達の宮殿へようこそ。少し落ち着いたら外を歩くのもいいでしょう。
 ユウのいた世界がどんなところかはわかりませんが・・・たぶん珍しいものが多いはずですよ。
 そのうちいろいろなことについて説明します。身の回りのことで何かあったら、
 ロアに言いつけてください。」



こうして、私のゼーダ国での生活は始まった。






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