06.混乱




「まず、自己紹介から始めましょうか。私はセラウド・リュイス。
  現在の王の第一王子にあたるものです。光の神殿の神官も務めています。
  光の神殿とは・・・あぁ、あなたが倒れていたところでしたね。
 そしてこっちが・・・」

 「クラウド・リュイス。セラウド兄上の異母弟だ。
    第二王子というところか。クラウと呼べ。」

にやっと笑ったその顔はどうしようもないほど妖艶だった。
自分に向けられたその笑みに柚有は思わずどきっとする。

――その顔だと、人の悪い笑みも魅力以外のなにものでもないんだ・・・。

柚有は、突然現れた惚れ惚れするほどの美形達と、和やかに進む自己紹介に
すっかり士気を削がれていた。
それにしても、王子?神官?何のことだかさっぱりわからない。

――もう、いい。とりあえず大人しく話を聞いてよう。

開き直るつもりで、答える。

 「わかった。あなたがクラウさん。それで、あなたは・・・」

 「私ですか?私のことは何と呼んでもらってもかまいませんよ。」

 「・・・はい。」


それでは、とセラウドが改めて切り出した内容は、私の想像を遥かに超えた次元のものだった。
自分を見失うまいと必死で頭の中を整理して、明らかになってきた現実。それは・・・

私は、何らかのきっかけでこのゼーダ国、私からみた異世界にやってきた。

彼らはこの国の王族で、ここは宮殿。

私が初めにいた場所は「光の神殿」。

そして、私が話した相手は・・・この国の初代王ゼーダ。

彼らの調べによると、過去にも1人異世界から迷い込んできた者がいた。

私は、どうやらある方法で、帰れる・・・らしい。


 「・・・・・・。」

相変わらずの微笑をたたえたまま、これらのことを淡々と話し終えたセラウドは、
どうですか、とでもいうようにこっちを見ている。

――そんな顔で見られても!ていうかよくこれだけの情報が短時間で集まって・・・ん?

 「あの、私どのくらい寝ていたんですか?」

ふと思いついた疑問を口にしてみる。

 「半日くらいですか。私があなたを見つけたのが昨晩。今は昼過ぎです。」

 「その間に俺達が部下にお前のような者が過去にいなかったか調べさせたんだ。
  まったく、真夜中に急に呼び出されたと思えば異世界から来た少女がいるなど。
    わけがわからない。」

クラウドがうんざりとした様子で口を挟む。

――わけがわからないのは、こっちだ。
  とにかく、早く帰らなきゃ。

 「あの、それで私すぐ帰れるんですよね?」

確かめるようにセラウドを見ると、彼は困ったような申し訳なさそうな顔で言った。

 「それが・・・昔の記録によると異世界から迷い込んだ者を元の世界に帰せるのは、
    ルーンが丸く満ちる夜なのです。実は、その夜はほんの3日前に過ぎたばかりで
    次に満ちるのは・・・1年後です。」

 「1、年・・・後?」

柚有は体中から血の気が引いていくような感覚におちいった。
――この人は、今何と言ったのだろう。1年後?
  それでは、受験も終わってしまうし・・・
    第一、行方不明のまま死亡したと見られてもおかしくない。

 「ま、帰れるだけましだな。」

それが幸運でもあったかのように、クラウドが言う。

 「そうですね。私も、あなたを帰す方法がないのではないかと心配していましたから。
  その時が来るまでは、この宮殿で暮らしてください。そうだ、あなたの名前は・・・」

 「そうだな、まだお前の名を聞いていなかった。」

柚有そっちのけで会話していた2人がいきなり柚有を振り返った。

 「・・・・で、しょ。」

 「は?聞こえないぞ?」

 「冗談でしょ!!」

俯いていた柚有がばっと顔を上げ、二人を見据えた。

 「私は、どうしても今すぐ帰らなきゃならないの!!どうにかして!!
  王子とか、神官とかよくわかんないけどあなた達えらい人なんでしょ?!なんとかしてよ!!!」

知らないうちに、涙が柚有の頬を伝っていた。
自分は怒っているはずなのに、と思う。とめどなく流れる涙を止める術もなく、
柚有は悔しさに唇をかんだ。

 「私は・・・!!こんなとこにいたくない!!」







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