05.出会い




柚有は、瞑った目の奥で意識がゆっくりと覚醒していくのを感じていた。

――あぁ、やっと私夢から醒めるんだ。

しかしゆっくりと目を開いてみると、目に映ったものと想像した風景との
あまりの違いにすぐに絶望した。
一見して西洋風の豪奢な部屋で、柚有は大きなベッドに横たわっているのだ。

「夢、じゃなかったの・・・?」


――夢などではない。汝はこのゼーダ国に入り込んできたのだ。


頭の中でさっきの声が鳴り響く。

「っ・・・・!!」

柚有は、手のひらをきつく握り唇をかんだ。

――こんなの、絶対おかしい!何かが間違っている。これが夢でなかったら一体何なの?!


「私は信じない・・・・。」

低くつぶやいたその声に重なるようにドアをノックする音がした。
反射的に体がびくっと震える。

 「・・・?どう、ぞ?」

ドアを開けて入ってきたのは金色の巻き髪が美しい、
床につきそうなほどに長く全身を覆う黒のワンピースを着た女性だった。

 「お目覚めになりましたか?ご気分は・・・?」

そう優しげに言う女の笑顔はとても綺麗で、その体のラインからは大人の女性という感じがした。

 「あの!!・・私・・・ここは?・・・あなたは?」

思わず支離滅裂な言葉が口からついて出てしまう。

 「ここは、ゼーダ国の王都であるビアンの宮殿。私はセラウド様に仕えるロアと申します。」

笑顔を崩さずにそう言いきったロアという女性を柚有はきっと睨んだ。

 「そうじゃなくて!!私は何故こんなところに・・・!!」

半分怒鳴るように柚有が言葉を吐き出したとき、再びドアが開き二人の男性が入ってきた。

 「気がつきましたか?・・・どうやら説明が必要なようですね。」

穏やかな微笑を浮かべそう言った男の言葉は、まさに柚有が最も求めていたものだったが、
そのあまりの美しい顔立ちと深く優しい声の響きに柚有の思考は止まってしまった。

ゆるく束ねられた透きとおるような紫色の長い髪。

切れ長の目。濃い灰色の瞳。

その表情は、思わず安心してしまいそうほど優しげで・・・


 「おい、大丈夫か?」

すぐ近くで響いた別の声に柚有はハッと意識を引き戻す。
茶髪の長い髪。吸い込まれるような漆黒の瞳。
気づくと、これもまた前に立つ男に引けをとらない整った顔立ちの男が、
吐息が頬にかかりそうな近距離から、柚有の目を覗き込むようにして笑っていた。

 「!!!」

――何なのここの人達は?!見る人全部が、こんなに美形ぞろいなんて!!
  ああもう、わけわかんない。

次第に顔が熱く火照ってくるのを自覚すると、柚有は恥ずかしくなって俯いた。

 「クラウド、この方はまだ状況がわかっていないのです。あまり驚かさないよう。」

前にたつ男が苦笑混じりの声で言う。
恐る恐る顔をあげると、さっきと同じ様にその美しい顔に優しい微笑が浮かんでいた。

 「知りたいでしょう?ここがどこなのか。あなたはどんな状況に置かれているのか。」


こくりと首を頷かせるだけで精一杯だった。







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