04.兆候




「セラウド様、この娘・・・どういたしましょう。」

二度目の光の柱を目の当たりにしたセラウドは、2人の兵士と共に神殿へ
やってきていた。そこで見つけたのは、
見たこともない不思議な服装を身に纏った一人の少女・・・。

セラウドは気を失っているらしい少女を抱き起こすと、
その華奢な身体が異常に熱いことに気がついた。

「・・・ひとまず宮殿へ。ひどい熱だ。
 侍女に世話をさせなさい。私も後で行きます。」

「はっ。」

セラウドの後ろに従っていた2人の兵士は戸惑いながらも
ぐったりと倒れた少女を恐る恐る運んでいった。
2人の腕にはそれぞれ赤の石と、緑の石がついた腕輪がはめられている。

彼らの動きが慎重すぎるのはセラウドの手前というだけではない。
目にしたこともないその服装や、手に握られた銀の棒のようなものは、気味が悪かった。

この娘は一体どこからやってきたのか。

その前に、どこの誰だかわからない、しかもあんなちっぽけな少女がこの神殿に入れるわけがないのだ。
ここは、王族とその許しを得たごくわずかな人間だけが出入りを許される聖なる場。
神殿の入り口は何重にも重ねられた魔法の層で覆われている。普通の者が入れるわけも無い。
2人の兵士も、兵の中ではそれなりに高い身分をもつものの、
この中に入ったのは今日が初めてだった。
今まで一度も見たことが無かった光の柱の出現と得体の知れない少女・・・。

2人は、言い知れぬ不吉な予感に肌寒さを感じていた。



兵士が少女を運んでいった後、セラウドは神殿内の微妙な雰囲気の違いに神経を集中させていた。

――何かが違う。ここで何かが起こった。

ゆっくりと歩き、ガラスの箱が置かれている台まで来たとき、その答えがセラウドの目に移った。

――石、が・・・ゼーダの腕輪の石が、光っている?!

驚くべき光景にセラウドの目が見開かれる。
遥か昔、このゼーダ国を築いた初代王、ゼーダの腕輪にはめ込まれた石が光っているのだ。
眩い純白の光はさきほどの光の柱の色と同じ圧倒的な輝きを持っていた。

この腕輪の石が光をもつのは、持ち主の意識が完全に覚醒しているときのみ。

伝説では、永い、永遠ともいえる眠りに就いているゼーダのものである腕輪が、
光るなどということは決してあり得ないはず。

「一体、何が始まろうとしているのだ・・・。」


一層厳しさを増したその眼差しは、目の前にあるものと同様に
ゆらゆらと揺らめく自身の腕輪の石の、しかし微かに金色を帯びた光をじっと見つめていた。







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