03.目覚め






「な、何、一体・・・?!」

こんな可笑しな夢は見たことが無い。

明らかに日本とは思えない建物。
突然現れた銀髪の・・・ヒト。

呆然と立ち尽くしていた柚有に、その人が呼びかける。

「我の前へ・・・」

その鋭く、有無を言わせぬ重圧感を含ませた声に柚有はおそるおそる前へと進む。
そして、その深い紫の瞳がはっきりと見えるようになると
その人はもう一度言葉を発した。

「汝の名は?」

「ゆ、柚有。高田柚有。」

「ユウ。汝は我が眠りを覚ました。正確に言えば、さきほどの優美な音が、だが。」

「これの・・・ことですか?!」

柚有は思わず手の中のフルートを見つめた。
さっきの音が、この人が寝ているのを邪魔したってこと・・・??

「す、すみませんでした。誰かいるなんて知らなくて!!それに寝てるなんて・・・
 すみません!!」

「違う。我は2000年を超える月日の間自らに封印をして、この神殿の奥で眠っていた。
 しかしその眠りをユウ、汝が現れて覚ましたのだ。汝が封印を解いたのだ。
 この世界に・・・何かが起きる兆候やも知れぬ。」

目の前の美しいその顔は一層厳しさを増し、遠くを睨むように見据える。

「あの、えっと仰っていることがまったくわからないのですが。
 神殿とか、封印とか・・・さっきの光も。
 それにこの世界って。これって私のただの夢でしょう?」

言い終ってみると、夜の闇によく似た深い紫の瞳が寸分も違わずに私の目を見つめていた。

途端に背中に悪寒が走る。自分は、何か間違ったことでもいったのだろうか。

「夢などではない。汝はこのゼーダ国に入り込んできたのだ。その優美な音を奏でたとき、
 何か変化は起きなかったか?」

――あ・・・。
  柚有は、その言葉でさっき目を開ける前に自分がフルートを吹いていたことを思い出した。
  そう、私は防音室であの曲を吹いていたはずだ。そして、最後の一回を吹こうとしたときに、床が揺れて・・・倒れた私は柔らかいものに包まれた。
  
あの時、眠りに落ちたとばかり思っていたのだ。
けれど、この人の言うことが正しいとすれば、私はあの瞬間ここに来たことになる。
その、何と言うか・・・まったく信じられないが・・・どうも、異世界に。

私の表情をじっと見ていたその人は、私に心辺りがあることを悟ったようだった。

「わかったか。汝は偶然か、もしくは何らかの理由があるのかはわからぬが、この世界に迷い込んだ。
 そして我を目覚めさせた。ユウ、我は自らに課した封印の目的どおり、汝に我の力をわけ与えよう。」

「え・・・・??」

何を言われているのかさっぱりわからず、尋ねようとした柚有の身体は突如、
白い炎に包まれた。

「う・・・ぁ?!」

――熱い!!
  体中が焼けるような感覚に恐怖がわく。
  必死にもがこうとしても全身が麻痺したようにまったく動かせない。


「我の力、純白の光。どんな色にでも染め得るこの光を汝に――」






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