秋、降る星のまばゆさに






修学旅行最終日の夜。

思わず手をのばしたくなるほどの星空を前にしながら、私は隣の麗人に見惚れていた。
何だってこんなことになったのかは、まったくわからない。
だが事実、私は学年一のルックスをもちながら学年一の変わり者と呼ばれる彼の隣を
愛想笑いを作りながら歩いている。

「やっぱり京都はいいね。」

茶色のさらさらの髪、透き通るほど白い肌、日本人離れしたその顔立ちに
柔らかい微笑を浮かべて彼は言った。

「あ、ああ。うん、そうだね。」

山に向かう少し奥まったところにある宿の近くからは、京都の街の夜景が遠目に窺える。
確かに、綺麗。
けれど今の私は正直それどころではない。

微妙に上擦った声の私の本心を察したのか、彼はくすくすと控えめな笑い声を零す。

間違っても、他の同級生には真似できない独特の仕草。

そう。それが、彼が変わり者と呼ばれる所以。
日本人、というよりは現代人離れしたその仕草、一挙一動。
無理していえば王子様。本当のところ、ナルシスト。

いくらルックスがよくてもこれでは到底、高校生の恋愛対象にはなりえない
というのが多くの友達の評価だ。

「どうしたの?」

足をとめていた私の顔をじっと見つめながら王子がのたまう。
首の傾げ方1つも計算しつくされているのではないかと思うくらい、完璧だ。

「別に・・・。」

ふうん? そう言いたげな唇がにっと笑みを形作る。
多くは語らないのも、この王子の特徴。

「星が、綺麗だなと思って。」

仕方なく取ってつけたように空を見上げてみせる。
そこには間違いなく都会ではなかなか見れない星空が広がっているのだが。

「星、ね。」

どうやら納得しかねる様子の王子は、少し不満そうにやっぱり私の顔を見ている。
そこまでじっと見つめられて耐えられるほどの神経を持ち合わせていない。
私は不自然に見えるのも構わず、あからさまに目線を外した。

「綺麗だよね?」

何とかこの、妙に緊張した雰囲気から逃れたくて口にしたその一言も悪かった。

「可愛いね。」

――か・・・?!

背筋がぞくりとしたのは、恐らく気のせいなんかじゃない。
相変わらずこっちを見つめているトコロをみると、その言葉が向けられた対象はやっぱり――

まずい、まずすぎる。
わたしの頭の中は、王子の変なスイッチを入れてしまったことに気づきパニックした。

「あ〜、え・・・?」

「その髪飾り、こっちで買ったの?」

「・・・っ!!」

微かな虫の音しか聞こえない情緒を感じさせる京の夜。

その視線をゆっくり辿れば髪にさしていた和風の髪飾りにぶつかった。
自分の恥ずかしい勘違いにようやく気づき、さっきの数倍心臓がバクバク鳴り始める。

「え、ああ、これは昨日お土産屋さんで――」


突然、思いがけないほどの強い力で腕を引かれた。


気づいたら、私は彼の腕にすっぽり包まれるかたちで立っていた。

「ほんと可愛いな。」

耳元で囁かれた言葉にのぼせ始めた頭に意識が遠のくように感じる。


学年一のルックスをもつ学年一の変わり者は誰よりも、腹黒い男だ――。


重なる唇に抵抗することも忘れ、心の中、1人そう確信した。













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