夏、降る雨のつめたさに



絶句、していた。

夕立でずぶ濡れになった彼女の姿に。

濡れた黒髪がはりつくのをものともせず頬を流れる涙に。

雨と涙は容赦なく彼女の全身を冷やしていた。

それでも道に立ち尽くす彼女はまるで

そうやって雨に打たれていることで乾いてしまった心を潤わせようとでもするようだった。




いつだって違う一点をじっと見つめ続けている彼女に

こっちを見ろと叫べたらどんなに幸福か。

いつだって辛い思いばかりを味わってしまう彼女に

もうあきらめろと言えたならどんなに楽か。



その細い腕を掴んで引き止めれば、きっと彼女の世界は変わるだろう。



けれど今まで一度だってその壮絶なまでの想いに手を出すようなことはできなかった。

決して報われない想いを抱え続けることなど無意味だと、止めることなどできなかった。

僕ごときが止められるはずもないと、自分で自分に言い訳しながら

どの瞬間も、ずっと、ずっと見つめ続けるだけだった。



その想いを持ち続けるならきっと、疲れきった心が再び満ちることなどないだろうとわかっている。




僕の傘と彼女の体を打つ雨は激しさを増した。













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